あの人は鴎に跨っていってしまった
やがて一通だけ手紙が届き
輝く勾玉を愛しながら
鴎の羽毛に顔をうずめているという
私は 急に ひとり
玄関のドアが開いた気がする
冷蔵庫を閉めた音がする
しかし かすかな期待は外れ
自分の手を自分で温めた
次の朝 鏡を見て嘘だと思った
私が写っていない
疲れているからもう一度寝ようと
でも
ベッドには私の寝巻を着た骸骨
あの人はどうなってしまったのか
私は飛行機のような飛行機
手紙の住所を訪ね
呼び鈴を鳴らそうとしたら
肩をたたかれた
振り返ると鴎がほほ笑んでいた
あれから間もなく
鴎は敵機に撃たれ海の底
あの人は 勾玉をかかえ
ひとりで頑張ったのだという
呼び鈴を鳴らすと
杖をついた老婆が迎えてくれた
私と鴎と老婆は 再開を喜び
苦労をねぎらい 思い出を語った
暗くなるころ
中年を超えたあたりの男性が
「母さん、またひとりごとばっかり
この頃ますますひどくなるね」
と無神経なこと!
シノハラさんへ
戦争、戦時下の映画の1シーンのような風合いを感じました。
戦闘機 鴎に乗り込んで、大空へ飛び立った決死の夫への妻の情愛を、時代、時空、次元を超えて表現されたのでしょうか。 作者ならではの、風刺、レトリックの巧みさが、戦争の哀しみや残酷さを、私にそっと伝えてくれたような気がしました。 すぐ後に投稿された「ぼくのまちはスイカだらけ」という詩と、田代ひなのさんが書かれた、その詩へのコメントを読んで ... それも、参考にさせていただき、私の、この感想となった次第です。
YUMENOKENZI