ひと雫の波が
その夏を覚えている
その夏の冒険を
夜風は今閉じる
歩き疲れて 道路の端に
微笑みながらしゃがんで
大きな空を見上げていた
そこへ一人の女性が現れた
―乗っけていってあげるわよ―
私は恥ずかしそうに俯いて
陽に灼けた首筋を搔いていた
―さあ早く 行き先をいって・・・
彼女は近くの駄菓子屋へ寄った
アイスクリームを買ってくれたのだ
―家出してきたんです 帰るところが・・・
―まあ よくないわ 喧嘩でもしたの?
彼女は笑いながらハンドルを握った
―こんなに遠くまで・・・この先に
海があったわね? 寄っていこうか?
―いいけども・・・私は無言で頷いた
潮風が開けてある車窓から
雪崩れ込んできた それは
少しベットリとしていたに違いない
駐車場に車を入れて二人は海辺に向かった
海岸は家族連れで
いっぱいであった 実は
私は海が怖いのであった
深緑の深淵に吸い込まれる気がして―
彼女はサンダルを脱いで
素足を波際に浸した
私も靴を脱いで同じようにした
―あとで足を拭いてあげるわ―
私は(年で言えば30前後の)彼女の
言うことをおとなしく聞いた
―もう家出なんかするんじゃないよ
さあ 足を出して―タオルで拭ってくれた
―今年も海に来たな 記念だね―
彼女は笑って車までゆっくりと歩いた
クーラーの利いている車内で
私は少し眠ったようだった
暫くして目が覚めた 車は
山間地帯を走っていた 私の街だ
―私のことは内緒にね・・・いい?
―ありがとうございました!
彼女はこれ以上のことは何も
言わなかった ひと雫の波だけが
知っているこの私の愚かさ
今だから言える彼女の大人っぽい優しさ―
はじめまして
UUXともうします
ひと夏の恋…それは年を重ねた時きっと素敵な思いでの一つになることでしょう
そんな夢のある素敵な詩だと思いました
武中さん、こんにちは。
幼さと大人っぽさが入り混じったような、素敵な雰囲気を感じました。
冒険的な、そして必然的とも思える出会いのお話、若いから出来た事かも知れませんが、私には少し眩しく感じる出来事ですね。
家族とのすれ違いも、その女性との出会いで乗り切れてんじゃないかとそんな風に感じるお話でした。