霊安室に母が椅子を並べている
「みんな死んだのよ」
いつこの仕事に就いたのだろう
死んだ体を扱うように
丁寧な手つきで並べていく
手伝おうとすると
「いいのよ、毎日、お仕事、大変でしょう」と言う
父のことを聞くと
「最初からいないでしょう」
俯いて答える
そんなはずはないと思い
父の特徴を思いだそうとするけれど
すべてが椅子の特徴になってしまう
遊園地にも三人で行ったはずなのに
母と二人で椅子に座ったことしか
もう思いだせない
乾いた木と金属の音が室内に響く
「あなたは人だから」と呟いて
母は下を向いたまま
椅子を並べ続ける
胸につけた名札が揺れる
一字違いで花の名前になれない
母は昔からそういう人だった
たけだたもつさん、こんばんは。
「胸につけた名札が揺れる」... こちらの名札には、あなたの母上様のお名前が書かれているのでしょうか ...
大切な思い出のアルバムを、友人に見せてもらったような、とても静かな、厳粛な詩風景ですね。 家族であった繋がりは、どのように人生を生きて来たとしても、けっして切れないものだと思っています。 言葉にできない、言葉にならない感情を、"母" の、静かな動きが、見事に伝えてくれています。
"霊安室"という語は、私には、父や兄のことをつい思い出してしまい、ちょっと寂しい言葉でしたが、知らずあふれた涙が、あなたの詩の道案内をしてくれたようです。
今、ともに過ごす家族、また、遠く離れて思い合う友人を、これらの繋がりを大切に育てて生きていきたいものだと、なおいっそう思いました。 ゆめの