*眠り*
揚羽蝶のさなぎを見たことがあるかい
人が過ぎ去った昔を想うとき
蝶の幼虫はその想いを宿したさなぎになる
畑の野菜に水をやり
土をたがやす
食事を用意して
朝からの出来事を話すとき
貴女の目はまっすぐにわたしを見ている
眠りにはいる前のひととき
貴女は蝶のことを想うという
花の蜜と水だけを吸って
空に浮くように
雲になり
ちいさなベッドのなかで
目をとじるのだろう
光りの洪水が行き過ぎれば
鱗粉のタペストリーとなって
レム睡眠の森のなかで
清流の樹々と手をつなぐ
濡れた枝のあいだにとまり
まばゆくひかりながら
*青い夜の夢*
月の樹が花を咲かせる夜
青いビロードの服を着たわたしは
ひかりの人魚のような貴女の手をとり
大麦の葉がしげる畑をこえ
銀色の靴で夜空を飛ぶ
荒地の一軒家は明るい
白くて長い手袋をした貴女も
友人である七面鳥と握手をする
(ごきげんよう
(これからもよろしくね
バイオリンの演奏にあわせて
七面鳥が陽気にうたう
夜の小さな結婚式は
薔薇を手にした客でいっぱいになった
わたしは貴女の手をとり
牡牛座のちかくで小船に乗る
静かな青い湖
貴女は星をいくつも集めて小瓶に詰める
きっと朝になれば
瓶の中の星は見えなくなっているだろう
貴女も
夢の中でのわたしを忘れ去るのだから
*幻影*
夜の書斎で
机を照らすひかりのなか
揚羽蝶の残像が
風に舞う花びらのように揺れ
翅を
ぱたぱたとさせていた
どこかへ行きたいのだろうか
わたしにはわかる
行きたいところがあるわけではない
生れてきたものはみな
きっと
自由になりたいのだろう
ナツメヤシの実を齧りながら
古い本のページをめくる
幻影の蝶が飛ぶゆくえには
目を閉じずとも
わたしたちの若かった日がある
どんな場所に向かったとしても
後悔などないように
今を生きる命をむだにはしない
これら三本の詩には、深尾さんの昔にやりたかったけどできなかったことを示唆しているような表現を感じます。私には小学4年生の時に大きな後悔を生む出来事がありました。最後にみたその出来事の夢は28歳の時です。その出来事を夢に見なくなるまでに18年かかりました。私の出来事はやらなければよかったことでしたから、もはやどうしようもなかったことですが、作者の出来事はやりたかったことのように思えます。まだ夢に見るようならば、歳を取った今からでもできることはあると思います。チャレンジしてみてはどうでしょうか?私の見当違いかもしれませんが。。
初めまして。
この作品がとても好きです。とてもいろんなイメージが浮かびました。
美しくて幻想的で、でも儚い、目が覚めてもまだ夢の中を彷徨っているような
そんな不思議な心地がしました。
(なぜか昔読んだ宮沢賢治の童話を思いだしました。)
味わい深い作品をありがとうございます。