銘々の人々に等しく訪れる暁の時間と感動
決してそれは一瞬のことではないし一通りのことでもない
空が徐々に暗い夜を脱いでゆくさまや
この時間に歩いている理由が分からないわずかな人々の進行
あるいはなぜかこの時間にベンチに腰掛けて話を弾ませている男女たち
どんな画家がどんな絵筆を取ったとしても
そしてどれほど大きなカンバスにであったとしても
一度限りの思いでは描き切ることができそうにない
そんな少し長い
永遠ではないけれど易くは過ぎ去らない時間と感動のことを
人々は暁と呼ぶものだ
この暁の時間と感動のうちに一仕事
済まさなければならないのが人間の性
惑いなき覚めた感覚で罪さえ忘れ
夜と朝との狭間にできたこの空隙に
測量機器を立てて信号を飛ばしてみる人影があったのだ
それからただの人影だったものが人間の姿を現して
ただ沈黙のうちに交わされていた合図が声になって
まばらにそのあたりに居合わせていた人々の耳に聞こえるようになった頃
暁の時間と感動は終わりを迎え
外に出ている人々は銘々の測量機器を仕舞いにかかり
淀みのうちに存していた喜びに朝の光が射し込んできて
行くべき場所が少しずつ明らかになると
みんな分散してまた新たな社会が始まる
「空が徐々に暗い夜を脱いでゆく」この表現、面白いですね。科学者としての表現だと、どうしても照らされるとか光で上書きされるという風になるところです。下に輝く空があり、夜を着ているなんて思いつかない表現でした。