青い作業服を着るわたしは
子どもの頃
鉄のにおいが苦手だった
鉄が暴力そのものであることを悟っていた
素手で鉄棒にぶら下がると
手のひら全体にこびりつく
金属の質感を恐れた
鉄工所の作業台にすわり
アーク溶接の激烈な閃光を受ける
AMラジオから
ピアノの演奏が聞こえる午後
太い鉄骨にふれる
単純な造形は見慣れていて
包丁のような危うさはない
いつしか鉄はわたしの友人のようになった
わたしが損得でものごとを考える
まともな人になったからだろう
現実を見つめた選択だ
必要だから使われるのだろう
それでも
鉄を好きだと言うことは
いつわりだと感じている
深尾貞一郎様
とても奥行きがあって、余韻が残る作品で、何度も読んでしまいました。
「直観」というタイトルと、「鉄を好きだと言うことは
いつわりだと感じている」という最後の一節が、特に
なぜかせつなく、心にささりました。
無駄のない硬質な文体が、かえってよく心の声を伝えている気がします。
味わい深い詩を、ありがとうございました。