『電話』
もしもし、あ、おばさん。
はい、僕です。
ご無沙汰してて、すみません。はい、なんとか元気でやってます。ええ、薬もきちんと飲んでますから、大丈夫です。
ようやく新しい仕事が見つかって来月から行くので、今やってる朝刊の配達は今月いっぱいで終わります。
今度の仕事は、朝から夕方まで、週休二日で給料もいいんですよ。ボーナスもちょっとはあるって言ってました。今までみたいに、すぐケツ割らないようにガマンしてみます。
それと、借りてるお金も、今より多めに返せそうですから・・はい、ええ、わかってます。約束しますよ、きちんと働くって。ヤケおこしたりしないって。
ねえちゃんには・・この前、電話したんですけど、金の話でケンカになって、お前の声なんか二度と聞きたくないって・・返すの遅れたから謝ろうと思ってただけなのに・・
ねえちゃんが怒るのも無理ないんです。もとはと言えば僕がしくじった時の尻拭いは、いつもねえちゃんがしてくれたんですから。僕のことで損な役回りばかりしなきゃいけなかったんですから。
だから、僕だって、ねえちゃんとケンカしたいわけじゃないんです・・「ありがとう」って言いたいんだけど、照れくさいっていうか、言ってしまうとねえちゃんが遠くに行ってしまうような気がして・・なんだか、言いたくないっていうのも変なんだけど、言えないんです。・・
心配かけっぱなしで、すみません。
ところで、腰の方はどうですか。僕が診てもらってる先生が、よく効く湿布薬出してくれるんです。一度おばさんに送りますよ。試してくれますか。
最近、猛暑だから、畑仕事休み休みやってくださいね。もう歳も歳なんだから。
僕だって、おばさんのこと気にかけてるんです、たったひとりのおばさんだから。
あ、もう十円玉がないや・・また、来月電話します。
そうだ、手紙にしようかな。おばさん、どっちがいいですか。
はい、ありがとうございます。
くれぐれもお体お大事に、さようなら。
ピー吉様、こんばんは。
お姉様への複雑な心境がおばさま相手に物語の中で率直に語られていて、ままならない世の中だなと思いながら読ませてもらいました。親しい人との人間関係と言うのは時に複雑で難しいものだと感じました。