四角い月
(はじめに)
この物語は、私が今でも信じられない出来事を記したものです。
それほど昔の話しでなくて、私が月が丸い事に何の疑問も感じて
いなかった学生だった頃です。
人付き合いが苦手と言うより人と関わり合うのが嫌いだった私が男と
関わったせいで人生観が激変する、イヤイヤ激変させられた被害者報告と捉えて貰っても結構な位の物語です。読者の中で自分も思い当たると感じられた方は、誰にも話さずに今の生活を送る事を心からお勧めします。
(出会い)
今、思えば彼との出会いは、運命だったのだろうか?
大学生の頃に空いた時間を有効に使おうと思いネット派遣の仕事を
始めた。
人間関係が苦手なので日雇いの仕事を選んで働いていた中で
捨て看板の回収と張り広告の剝がしを行う仕事が有ったので登録して
みた。
採用通知に集合場所の地図と集合時間が記されていた。
集合場所に着いて詳しい仕事内容を聞くと
私は、回収するトラックの助手席に乗り回収作業の間に駐車違反キップを切られない為の駐車違反対策のマネンキンらしい。
マネキンといえど車の近くの張り紙広告の剥がし位はして貰うとの事。
私としては、作業内容より車に同乗する事に抵抗を覚えた。
少し迷ったが、現場リーダー的な人に言ってみた。
「解りました」と言って年配のドライバーを何人か連れて来て
「少し話をして大丈夫そうな人と組んで下さい」と言ってくれた。
話しが出来ずに俯いていると、ドライバーの一人が声を掛けてくれた。
「俺もお喋りが好きでないから俺と組もう」と言って自分の車へと歩き始めた。
確かに口数が少なかった、作業現場に着くまでに交わした会話は、
コンビニの駐車場で「飲み物は何が良い?」「お茶が良いです。」だけ
だった。
作業場に着くと、電柱に張られている2・3枚の張り広告を示して
「あれを剥がしたら助手席に座って居てくれれば良いと言って」少し離れた所で作業を始めた。
言われた広告を剥がして車で待っていると、脇に紙を抱えた男が現れて
私が剥がした後の電柱に紙を張ろうとしている。
え~!?
不思議と迷いとか無く体が動いていた。
「すいません!そこへの張り紙は止めて貰えますか!」
私の声に男は驚き「見えるんですか?この紙が!」
「もう張る必要が無くなったので張りませんとも!」
運命は悪戯好きと聞くけれど、これが運命の出会いだとしたら悪戯が
過ぎると私は思った。
社会の片隅で、ひっそりと生きる人たち。生い立ちは互いに知らない、知ろうともしない。それぞれの事情を背負って、ただ今日の命を保つために黙々と作業に勤しむ。
物語の背景となっている日雇いの仕事の描写は、その現実を知らない人には書けない情景と私は思います。フィクションとはいえ、その根拠となるのは倦むような毎日の暮らしに他なりませんから。ある意味、私小説のようなプロローグですね。
次回を楽しみにしています。