二つの詩(詩・雪を求めて編)
連休が終わった後で同僚のシルバーウイークも終わりかの言葉に、シルバーウイークだったのだと気が付く、それぞれに楽しかった事をシェアするかの様に連休のエピソードを話し合っている。昼休憩に「雪影さんは、連休中に何処かへ行かれたのですか?」と横で話しが盛り上がっているグールプから声を掛けられた。自分達の楽しいかったエピソードを聞いて欲しいのだなと思い。「水族館へ行った。」とだけ言って聞く体制で待って居ると、話題になっている水族館の名前が幾つか返って来て、直ぐに返事が出来ずに変な間の後で、近くの水族館の名前をいった。「あそこの水族館は、空いていて魚がゆっくりと観られて良いですよね。」と気を遣わすだけで相手が何処へ行ったかの話しへと発展しなかった。だからグループ・ディスカッションは苦手なのよね…やれやれ仕事じゃないのだからディスカッションは無いだろうと自分で駄目出しをしながら、グループの話しを聞くでもなく食後のコーヒーを飲んでいた。
不図、連休前に話していた夫との詩の話しを思い出した。確か夫が提示したタイトルは、埃か忘却だったわね。釣った魚は、もう魚じゃなく食材だって男は言うけれど、段々とタイトルが持つ意味が私をゴミか忘れ去りたい対象なのかと思えて来た。そう言えば、物語を読んでくれたクロエさんも蜥蜴の詩を読んでも気持ち悪く無いと言っていたし、夫が出した詩のタイトルに対してもコメントが無かったわね。男性の思考回路ってデリカシーの回線が無いのかしら・・・こんな事を書いたらクロエさんもコメントしてこなくなるかも。クロエさんは、奥様思いの優しい男性だと思っていますよ。
急に夕飯の支度への意欲が失せて、夫へラインをする事にした。「今日、少し疲れてるから(正確にはテンションが下がったから)外食にしてくれない。」惣菜を買って帰ればと思った人は、主婦の鏡か家事をしない人だと思う。食事の支度って後片付けまでを言うのよね。惣菜をお皿に盛って洗い物をする時点で食事の支度をしているのと同じなのよね。って誰に愚痴を言っているのかとハット気が付き、周りの様子を窺った。周りは自分達の話しで夢中みたいでホットした。
夫からの「解った、店を決めてくれたら行くから店名だけ送ってくれ」と返事が来ていた。私は家から近い駅にある安いが売りの居酒屋の店名を送り、先に行って待っことにした。最初に頼んだビールを飲み干すまでに夫が店に入って来た。周りを見渡しテーブルに座って居る私を見付けて向かいに座った。「どうした?飲み相手が見つからなかったのか?」溜息交じりに言葉を返した。「詩のタイトルと言い最初の言葉が、これだものね。」「何?詩のタイトルと俺の言葉がどうした?」「貴方はデリカシーを何処へ置き忘れてきたのかって話しよ。」少し不満そうな顔をしている夫に「書いて欲しいと言っていた詩なんだけど、埃でも忘却でもなくてペンネームの雪影をイメージして書いて欲しいんだけど」の私の言葉に「良いよ、タイトルを聞いてから考える積りだったから、だけど頼み事をする前に相手のテンションを下げるのは得策とは言えないな。」と言ってきた。(テンションを下げたのはアンタが先なんだからね。)と思いながら「雪影は、私だから愛を込めて書いてよ!」の言葉に、それが一番めんどくさいと言わんばかりに「雪影か~恵子の何処に影が有るんだ?」と小さな反撃をして来た。「一応、聞くけどさ~二つのタイトルの詩を本当に考えて無かったの?それと何でタイトルが埃と忘却なの?」の質問に夫は、運ばれて来た料理とライム・サワーを口にしながら、「埃は恵子が詩を書く時に言っている身近な物、誰の所にも存在する身近な物、そして忘却は誰もが持っている心の自己防衛機能、正常な生活と精神状態で有れば共感しやすい題材だと思ったからさ。」「言っておくけど見せない詩を考える程、俺は暇じゃない。」夫の言葉を聞いて自分の考えの浅さに浅さを…ビールで胃へと流し込んだ。自己嫌悪から抜け出す為に話題を水族館の話しへと変えた。昼の休憩室で水族館の話しをしたら気を遣わすだけで話しが続かなかった事を話し、相変わらずコミニケショの取り方の悪さを笑いにする事で浄化させて夕食を兼ねた夫との飲み会を終わらせた。
土曜日の夕食終わりに夫から「雪影」の詩、書けているから読むかと言ってきた。そして渡された詩がこれだった。
雪を求めて
北へ北へと歩(ほ)を進め
ただ雪を求めていた
雪を見たいわけでなく
雪に触れたいわけでなく
雪遊びは昔に卒業したはず
北へ北へと歩(ほ)を進め
ただ雪を求めていた
雪は手のひらで溶けゆくもので
雪が体温を持ち去ってゆくとは
雪は存在を変え私の行く手を阻むのか
北へ北へと歩(ほ)を進め
ただ雪を求めていた
雪は私の永遠の夢なのだから
雪は崇高なる理想であって欲しい
雪を求める歩(あゆ)みを阻む雪を踏みしめて
北へ北へと歩(ほ)を進め
ただ雪を求めていた
雪を乗り越え最北端の地に立ちても
まだ見ぬ雪の面影に想いを馳せる
雪を求めて北へ北へと歩(ほ)を進め
雪よりも淡く儚い
雪の影を胸に秘めながら進める歩(あゆ)みは力強く
渡された詩を読んで、暫く言葉が出なかった。嬉し泣きとは言え涙を見せるのは嫌な気がした。「私への初めての詩に乾杯しよう。」と言って台所へと立ち気持ちを落ち着かせた。缶ビールとグラスを用意して夫とビールを飲みながら読み返した。感想を聞きたそうにしている夫に「妻を泣かせて楽しい?」と言いながらビールを飲み干した。何も言わずに夫もビールを飲み干して満足げな顔をしながら、もう一本ビールを持って来て空になった私のグラスに注ぎながら「今夜のビールは、特別に旨いな」と言って自分のグラスにも注いでいた。
(終わり)
※二人にしか理解出来ないニュアンスが有るので伝わり切れないかも知れませんが、彼が書いてくれたままで物語に載せています。客観的な目で読んだ時の感想にも興味が有るので遠慮なくコメントして下さい。
素敵な詩です、雪影さんに対する思いが夫婦と言う枠を超えてまるでまだよく知らぬ思い人を見ているようです。
私には絶対に書けないタイプの詩です、ご主人の独特の言葉使い、多分日常生活ではあまり使わない言い回しを楽しんでいるそんな気がしました。
私は自分の気持ちを表すのが下手なので状況や相手の行動でそれを表現しようとします、ご主人の目が欲しいと思いもしますが、多分それだと私がなくなってしまうから、ここはその言葉から逃げて、今は自分を守ろうと思います。
多少ショックを受けていますので少し支離滅裂な文章かとも思いますが、この物語では「雪を求めて」と言う蜘蛛の糸に引っ掛かり他へは進めなくなっているようです。
ちょうど今ハエトリグモがマウスポインターを追いかけてモニターの上を動き回っています、まさに今の私のようだとちょっと滑稽に思えました。