四角い月(11)
(四角い月)
和子さんの温もりの中で落ち着きを見せた私に、和子さんが、囁く様に話してくれた。「まだ何も信じられないと思うし、夜も遅いし、日を改めてお話しをしない?」と言われた時、一人でないと言う安心感が涙を誘い言葉を声に出来なくしていた。携帯の番号とアドレスを交換して公園の駐輪場まで、和子さんと他愛もない話しをしながら向かった。駐輪場でバイバイと手を振る頃には、「ケイちゃんまたね~。」「ハイ、カコさん連絡しますね。」と呼び合う仲に成っていた。
家に帰ると母が、テレビを見ながら「おかえり~。」と声を掛けて来た。「ただいま~少し遅くなっちゃった。ごめんなさい。」と言うと「たまには良いじゃない、サークルの飲み会でしょ!お父さんには内緒にしといてあげるわよ」と貸しだぞと言わんばかりの顔をしている。何も変わらない母の顔を見て、また涙が出そうに成ったが我慢して「ねえねえ、お母さんって宇宙人とか信じる方?」と聞いてみた。何を突然、聞いてくるのという顔をしながら「じゃ~さ、お母さんや恵子が地球人だってっ証拠は何処に有るの?」と予想外と言うか月城憲治の顔が頭を横切って表情が固まってしまった。私の驚きが大きかったのか母が心配そうに「どうしたの?私たちが地球人で有る事と同じ確実で、宇宙人が居る可能性が有るって事よ。」とテレビから私の顔へと目を移して「変な子ね、自分から話しをしてきて、急に変な話しをしないでって顔をして~。」愛想笑いをしながら「ゴメン・ゴメンまさかお母さんから論理的な答えが返って来ると思わなかったから驚いた。」と何とか返した。「親を馬鹿にしてないで、お風呂に入ってきなさい。」母の言う通りお風呂に入りながら、情報と感情が混乱した状態で行動するのを止めて、明日にでも和子さんと相談する事にした。
日曜にしては早めに起きた。相談する内容とかを考えようかと思ったが答えが出ない堂々巡りに成りそうな予感がしたので止めた。台所へ行ったが母も誰も居なかったので、用意されていた朝食を済ませて、自分の部屋から和子さんに電話をすると、昼からなら少し話せると言って貰えたので、お互いが知っているカフェで会う事にした。下で母が家事をする物音が聞こえてきて、時折、父が母を呼ぶ声も聞こえて来た。
今日は、ゴルフじゃなくお父さんも居るみたいだ。下に降りて父に声を掛ける。「おはよう~お父さん、今日は一日居るの?」「ああ~今日は、母さんと買い物をする約束をしていたからな、恵子も一緒に行くか?」「まじ!行きたいけど午後から約束が有るんだよね。」「そうか残念だな、旨い物でも食べようかと思ったが今度にするか。」「じゃ~さあ、夕食を外食にしようよ、店を決めてくれれば合流するからさ~。」父との会話に母が割り込む様に「ちゃっかりしているわね、外食するなら遊びに行く前に明日の準備をしときなさいよ。」と言って家事を再開した。私は父に夕飯、期待していますという感じを匂わせながら合図して自分の部屋へと向かった。
昼過ぎ、お互い昼食を済ませてから会う事にした。「ケイちゃん少しは落ち着いた?少し心配だったけれど大丈夫そうで安心した。」「有難う御座います。両親の顔を見て話しをして、今までと変わらずに過ごせているので気持ちも落ち着いてきました。慌てずに考えて行こうかなと思っています。」頷きながら和子さんは聞いてくれて、言葉を掛けてくれた。「そうそう、慌てる事なんて何も無いよ。ケイちゃんが変だなとか困ったなって事が有ったり起こったりした時に私か憲治・・・私に相談してくれれば良いのよ。」遠慮なく甘えなさいという感じで話してくれた。和子さんの言葉で気持ちが一層楽になり、数時間たわいもない話しをした後に、月読の事以外でも相談に乗って貰う事になり定期的に会う約束をして別れた。
夕食には早いと思ったけれど、母にラインをした。しばらくして母からモールで買い物しているから来られるなら来なさいとの返事、気になっていた服を思い浮かべながら「今から行く、着いたら連絡するから宜しく」とラインしながら駅へと向かった。
モールで落ち合い、目当ての服と服とコーディした靴まで買って貰いウキウキ気分で夕食を取る事にした。店に入り、それぞれに注文を済ませて料理を待っている間に父が口を開いた。「大学は楽しいか?恵子の事だから単位とか心配してないが先の事とか考えているのか?」やっぱり聞くって顔で「う~ん、文字・文章に関わる仕事が出来れば良いかなと思っている。」私の言葉に驚く感じも無く「そおか、恵子は本を読んだり、物語を書くのが好きだったからな。でも仕事にすると成ると大変だぞ!」と言ってきた。「解ってる。自分で書こうとか思ってない関われる仕事に就けたら良いなと考えている。」仕事の話しが出た今がチャンスだと思い「ねえ、お父さんの仕事って何だっけ?どんな仕事をしているの?なんなら私もお父さんの会社へなんてね。」少し驚いた様子で父は「娘をコネで入社させられるほど力を持って無いし、やりたい事が有るなら、そっちを頑張りなさい。」と肝心の仕事内容に触れてこなかった。「だね、でもお父さんがどんな仕事をしているのかにも興味が有るんだよね。」と食い下がると母が「恵子は今、自分の先の事を考えなさい。それに料理が来たわよ、食べましょう。」の言葉と共に父の仕事の話は終わりという雰囲気を漂わせた。食事を終えて帰宅後は、父は仕事をすると自分の部屋へと向かった。私と母は、風呂の用意などを進めながら買ってきた服の感想を交わしながら風呂が沸くのを待って居た。「お風呂が沸きました。」の風呂場からのセンサー声に「お父さんに風呂が沸いた」って言って来るねと父の部屋に向かう私に母が「恵子は、もう四角い月は見えたの?」と聞いて来た。
突然の母の言葉に返事が出来ずに立ち尽くす私に母が「見えて無いなら良いの。四角い月が見えたら隠さずに言いなさいよ」と言ってバスタオル等の用意を始めた。「ねえ、お母さん四角い月って何?」と聞いても、そんな事は言って無い様な顔で「早く、お父さんにお風呂に入る様に言ってきて」と言って取り合ってくれない。母には四角い月が見えているの?私にも四角い月が見る様に成るの?四角い月が見えたらどうなるの?湧き上がる疑問と不安から何度も母の方へ振り返りながら、風呂が沸いた事を告げに父の部屋へと向かった。
風呂上がりに見上げる我が家の上に昇る月は、少し欠けてはいるが丸い月だった。
(終わり)
※次回の後書き反省を含めた自分の思いの様なものを書きたいと思っています。ただ長いだけの物語に最後まで付き合って頂き感謝の気持ちで一杯です。心からお礼を申し上げます。
雪影さん!、これで一部完結なの、(終わり)って書いているけど、なんだかステーキの匂いだけ嗅がせて、隣のお客様の処へ運ばれた時のような、拍子抜けと言うか、この物語のテーマがつかめない私自身へに焦りのようなものを感じています。
総てを把握している母親、父の存在のベールに包まれた部分、その真実を知った雪影さんの心の葛藤と、新たな世界へ独立して行く姿を見たかったです。