鍵(3)
(鍵に合う扉)
食事の支度をするという現実的な作業が、鍵に合わせてドアを造る考えに冷水を浴びせ、物語を思い出した時の情熱を冷まして行った。食卓に食事を運ぶ頃には、ドア造りの熱も冷めて夫と冷静に話せる様に成っていた。そんな私の様子を見て夫が「女って現実に戻るのが早いな。」と言って何か言いたそうな感じで食事を始めた。「あなたも少し飲むでしょビールで良いよね。それと何か言いたげだったけど何よ?」夫にもビールを注ぎながら問いかけてみた。「うん、人が出入り出来る程のドアは無理だとしても、ミニチュアなドアなら安く造れるじゃないかと思っただけさ。」夫の言葉に消えかけた情熱が熱を吹き返して来た。「なるほど~また良い事を言ったね。流石は私が好きに成った男だわ。」料理の味の感想も私の言葉に対しても無言のまま食事を進め、空に成ったグラスを差し出してビールを催促してきた。「話しを聞いて俺も気に成って来たから、金銭的な事を含めて無茶しない程度に気が済むまでやってみたら。」とビールを飲み干してテレビの方へと移動した。「有難う。鍵屋さんに聞いてみる。」
翌日、前に行った鍵屋さんに相談してみた。「はあ、その様な事例が無いので業者に問い合わせてみます。その鍵をお預かりして良いですか?」と言われて鍵を預ける事にした。一週間もしない内に携帯に連絡が入っていた。「どうでした?どれくらいの価格で造れそうですか?」その言葉に「セキュリティの面を考えなければ一万円足らずで造れそうですが、鍵としての役割を成さない物としては高すぎる様に思えますが、どうなされますか?」と聞かれた。確かに鍵屋さんの言う通り安い買い物でない。「家の者と相談してきます。お手数をお掛けしてゴメンなさい。有難う御座いました。」と言って深々と頭を下げた。「いえ・いえ 私も少し興味が出て来たので、もしも鍵を造る事に成ったら少し位なら、お安くしますので鍵を造られた後の事を聞かせて貰えますか?」と店員さんが社交辞令でないと言わんばかりに値段の事を交えて声を掛けてくれた。思い掛けない言葉に少し戸惑ったけれど「解りました。夫と相談して良いと言ってくれたら、大人夢物語を一緒に見てみましょうか。」そう言って鍵屋を出た時の足取りと気持ちが少し軽かった。
夫に夕食を食べながら鍵屋さんとの遣り取りを話した。すると私が持っているグラスを指さしながら「六か月間、禁酒とは言わないけれど、週の休肝日を一日増やせよ。」と言ってきた。空に成ったグラス越しに夫を恨めしそうに見ながら、コクリと小さく頷いた。含み笑いを浮かべながら「恵子の飲酒をセーブ出来る鍵って凄い鍵だったんだな~。」と言いながら食事を済ませてテレビの方へと向かった。
夫との経緯を鍵屋さんに話して鍵を造って貰う事にした。「解りました。奥様が払われた犠牲の分を考慮して勉強させて頂きます。」とニッコリと笑って持って来た鍵を受け取った。「そうですね、簡単な鍵と言っても少し時間を頂くと思いますが大丈夫ですか?」業務上の確認に対して「はい、使っていない鍵ですから大丈夫です。出来たら連絡を下さい。」と答えた。「解りました。私も楽しみにしているので、出来るだけ早く出来る様に手配しておきます。」店を出る時には出来上がった鍵への期待で気持ちが一杯で夕飯の買い物を忘れかける程だった。
雪影さん こんにちは
いよいよ何の鍵か物語は佳境に入ってきましたね。
「含み笑いを浮かべながら「恵子の飲酒をセーブ出来る鍵って凄い鍵だったんだな~。」と言いながら食事を済ませてテレビの方へと向かった」
まさかの展開になるのでしょうか?
この会話にちょっと含み笑いをしてしまったUUXでした。
続きが楽しみです。