飴玉(物語編)
父が検査入院し心配性の母が父を一人にするのが心配だから、大阪の叔母の法事に代わりに出られへんか?と連絡が来た。生前、世話に成ったとかじゃなくて慕っていたから、相談に乗って貰うとかじゃなく一方的に話しを聞いて貰っていた。気の許せる数少ない身内だったから出席すると返事をした。旦那さんは?の質問に…そうだよね…それに関しては追って返事をするからと言った。夫婦間でお互いの家の催事には強制力を持たせない事にしていた。夫の気持ちを確かめずに、私一人で行くと返事をしても良かったのだけれど帰ってから意志を確認する事にした。
「ねえ、大阪で法事が有るらしいから行ってくるね。」「誰の法事なの?」「無理して出なくて良いよ。高槻の叔母さんの13回忌だってさぁ。」「ああ高槻のおばさんか~結婚する時に話しを聞いてくれて応援してくれたよな。何日なの?俺も顔をだすよ!」「行っても叔母さんは居ないよ。」「そう言う事じゃ無くてさ~おばさんの話しをしたいし聞きたいかなと思ったから。」「解った、有難う。出席するって返事しとくね。」
夫婦で大阪へ向かう途中の話しは、結婚前の話しとなり何故か夫の都合の良い感じに編集されていたので、突っ込みを入れて記憶の訂正をしていても関西なので日常会話としか映らなかった。
少し早く着いたかなと思いきや、見知った人が思っていたより多く来ていた。「久しぶりやな~」の声と共に自分も含めて公平に時間は過ぎているのだと実感させられた。私より愛想が良い夫に挨拶をしてくる人の中で「恵子ちゃん、ご苦労様。夫婦で来てくれたん嬉しいわ~。」と声を掛けて来たのは叔母さん娘の晴美さんだった。そして、後ろから覗いているのは、どう見ても晴美さんの娘さん、子供って不思議で苦手意識を持っている人が解るのか「ほら、挨拶しなさい。」の晴美さん言葉に本堂の方へと走って行った。「ごめんなさいね~…」気まずそうな言葉と共に本堂へと案内して貰った。
挨拶を交わしながら供養が行われる部屋の後ろの方に座って居ると、晴美さんの娘さんが優しそうな女性から飴玉を貰おうとしていた。それを晴美さんが、飴ちゃんを喉に詰まらせると怖いからと女性に頭を下げながら娘には違うお菓子を渡していた。親って大変だなと思っていると親類にやっと解放された夫が横に座って来た。
供養は午前中で終わり、昼食までの時間をお寺で歓談して時間を潰す事になった。時間と体力を持て余す子供達は、親に叱られながら行き場を失くしていた。それ程に懐かしいと思わない親類との挨拶を交わしている中で子供達の声が小さく成っていた。気になっていたが自分の両親が来なかった理由などを話す内に意識の外へと追いやられていた。そろそろ食事を予約した店へと移動する準備が始まる頃に、夫と数人の子供達が本堂へと戻って来た。後で聞いた話しだと、境内で子供達の遊び相手をしていたらしい。子供達にとっては勿論の事、子供達の親にも感謝されている夫の姿は、普段見る夫と違い宛ら変身ヒーローに見えた。
夫と遊ばずに大人しく遊んでいた女の子達の中に晴美さん娘さんが居た。よく見るとホッペが少し膨らんでいる。お姉さんに飴玉を貰ったのかな?親でない立場の心が詩を綴り始めた。
飴玉
飴玉コロコロコロロロリ
何に押され転がる飴玉は
飴玉コロコロコロロロリ
何が追うやら飴玉を
飴玉コロコロコロロロリ
何を見付け止まるや飴玉よ
飴玉コロコロコロロロリ
あの子の膨らむホッペから
飴玉コロコロコロロロリ
こぼれる笑顔が甘くて眩しいね
飴玉も一番喜んで貰える所・人へと転がってゆくのだなと思いながら、こぼれる笑顔を見て居るだけで口の中に幸せな甘さが広がって来た。
少し息を切らせたヒーローに「子供苦手じゃなかったんだね。」の問いかけに「ああ、普通に好きだけど。」「そっか、もしかして自分の子供が欲しいと思っている?」の少し意地悪に思える言葉に「僕達二人を必要とする子供が居たら来てくれるさ。」とコウノトリが子供を運んで来ると信じているかの様な発言に「詩人として、あなたに勝てそうにない。」と両手をあげて見せると「大阪難波のグリコの看板かよ、恵子は詩人より芸人を目指した方が良いかも。」と子供達に囲まれて食事会場へと向かっていた。聞こえない程度の声で「馬鹿にしないでよ~月と詩人では褒められる時も有るんだから」と言いながら昔に読ませて貰った夫が書いた詩を思い出そうとしている自分が居た。
(終わり)
雪影さんは子供が苦手なんですか、だとすると我家と似ているようですね、私は子供に人気があり、学生時代叔母のやっている幼稚園に行くと叔母が「子供たちを遊ばせて」と言うから運動会を始めてみたら大騒ぎ、子供たちがまとわりついて。
妻はこのように気を引くために媚を売る子供の姿が悲しいと言って保育士の資格を持ちながら一度もその仕事に就いた事がないんです。
雪影さんのご主人詩人さんなんですか、雨情さんのような詩をお書きになるんじゃないのかな、と勝手に想像しています。