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物語

公開·12 メンバー

K君の冒険


 土曜日のお昼前、K君はふとおばあちゃんに会いたくなった、彼のパパのおばあちゃんは一緒に住んでいるが、ママのおばあちゃんは彼の家からは遠くに住んでいた、でも彼はパパのおばあちゃんよりママのおばあちゃんの方が好きだった。

 パパもママもお仕事、パパのおばあちゃんは電話でおしゃべりに夢中、彼は車で何度もママのおばあちゃんの家まで行っているので道はしっかりと覚えていた。

 ゆーばー(ママのおばあちゃん)の所に行こう,彼はそう決心すると一人で家を出た、おばあちゃんに見せるための恐竜のカードを手に持って歩き始めた。

 通いなれた保育園の前を通り、小さな住宅街をぬけると畑の中を広い道がまっすぐ伸びている、家もまばらになり彼は少し不安になってきた、でも確かに自分の記憶にある道だ、彼は小さな足で一心に歩き続けた。

 歩いても歩いてもおばあちゃんの家は見えない、少し疲れお腹も空いて足が痛くなった、心細くなり彼の目から涙が勝手にこぼれた、それでも彼は歩き続けた。


 そんな彼を一人のおばさんが見つけ声をかけて来た、小さな男の子が目に涙をためて歩いていたからだ、その人は昔学校の先生だった。

 「こんにちは、ボクどうしたの」その人は優しく話しかけて来た、「お家に帰ってるの?」そう聞いた、「ばーばの家に行く」彼は涙をぬぐって答えた「おばあちゃんの家に行ってるの?」彼はこっくりとうなづいた、「おばあちゃんの家はどこ?」「あっち」小さな手で道の向こうを指差す「なんというところか分かる」「わからん」「行った事はあるの?」「きのうも行った」「僕のお名前は」「ゆいけいいち」「けいいち君のお家はどこかわかる?」彼は番地までちゃんと答えた、「えらいね、ちゃんと覚えてて言えるんだ、でもそこから一人で歩いてきたの?」「うん」「おばあちゃんの家はわかるの?」「わかる」「近くなの?」「わからん」彼はそう言うとまた歩き始めた、「ぼく、お家に帰ろうよ」「ばーばん所へ行く」「おばちゃんが車で行ってあげるから、一度お家に帰ろう」「いい、歩いて行く」彼は頑として帰ろうとはしない、その人はお店を見つけ「ねえぼく、おばちゃんのどが渇いたからジュースが飲みたい、僕もジュースを飲もうよ」「お金持っちょらん」「おばちゃんが買ってあげるから」そういって彼の歩みを止めさせた、彼がジュースを飲んでいる間にその人は店の電話帳で『油井』と言う家を探して電話をした。


 彼の家では彼が居なくなって大騒ぎになっていた、早速彼のママに連絡が入り迎えに走った、歩き出そうとする彼を何とか引き止めている店先にママの車が止まる、「ケイ」ママの声に振り向くと彼は弾かれた様にママに走りより抱きついた。

 彼は心細くて不安で寂しくて悲しかった、泣き出したい気持ちを必死に抑えていた、その張り詰めていた糸がママの顔を見たとたんにぷつんと切れてママにしがみ付いて大声で泣き出してしまった、自分でもなぜないているのかわからなかった、辛かったからかくやしかったからかそれともママに会えた嬉しさからか、とにかく一度声を出したらとめどなくいろんな感情が噴き出して泣き続けた。

 叱るつもりだったママは安堵感からか笑い声になっていた。


 優しいおばさんと別れ、お菓子を買ってもらった彼は、望みどおりおばあちゃんの家へ、心配して待っていた私に彼は満面の笑みを浮かべ「じじ」と言って飛びついて来た、目はまだ少し赤いがはじける笑顔はもういつものK君だった。

仰基夜永
雪影
西川 晋之介
YUMENOKENZI
雪影
雪影
Sep 04

冒険ですね~。K君の気持ちが解るな~行った事が有るから行けると思えるんですよね。おばちゃんの登場も良い感じでK君の状況や心情が伝わって来ました。お母さんの顔を見た時の安心感から来る緊張が解ける瞬間を糸が切れると表現されている所が印象的でした。

内孫と外孫の違いをK君の好きの度合いで表現している所も憎いなと感じました。

壷井栄さんの二十四の瞳を思い出しました。子供達が大好きな先生に会いに行く場面を思い出しました。子供が好きな人に苦労して会いに行って会える物語って良いなと思いました。

素敵な物語の投稿ありがと御座います。感動を貰えました。

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