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物語

公開·12 メンバー
雪影
天空の雪Heavenly Snow

四角い月(8)


(かぐや姫の血を引き継ぐ者・その一)

ただただ話しを聞くだけで、自分の事である実感が湧かずにボーットしていると、集まって来た中の一人の女性が私の肩にそっと手を掛けて「突然、こんな事を言われても受け入れられないよね。大丈夫だから貴女は何も変わらないし変わる必要も無いのよ。」と声を掛けてくれた。優しく声を掛けてくれた女性の顔さえ見られない程に動揺を抑える事が出来ずに譫言の様に「ありがとう。」と言うのが精一杯で私は混乱する頭の中で母の顔をスライド写真の様に浮かべては消しを繰り返していた。

さすがの月城も私の様子をみて心配に成り好奇と心配の入り混じった感情の渦に向かって「皆、悪いけれど後は俺に任せてくれないか。後日、経過報告は必ずするから」と言って多くの注目から解放してくれた。

「月城さん、さっき母が月読…かぐや姫の血を引く者じゃないかと言っていましたよね。もしかして母は、私がカグヤ姫の血を引いている事を知って居るのでしょうか?」最初に口から出た言葉は、自分の事でなく母の事だった。

月城は言葉を選ぶように少し沈黙の後で、ユックリと話し始めた。「おそらく知っていると思う。」これは確認だけれど「渡したチラシを君は、お母さんに見せたかい?今もチラシを持っているのかい?」と真っ直ぐに目を見て聞いて来た。

自分以外の人にチラシが見えていない事を知り、チラシを自分以外の人間に見せるという考えが消えていて母親に見せようという思いは浮かばなかったと告げた。部屋で自分にしか見えないチラシの存在が気味悪く成りゴミ箱へ捨てた経緯とチラシを捨てた後でチラシに付き纏われた事を告げた。もちろん月城に対しての嫌悪感がチラシを捨てた大きな理由だと言う事は伏せて告げた。そして、チラシは部屋に帰った時には無く成っていて…え?月観測に参加すると決める前にチラシが消えていたとしたら、私以外にチラシが見えていた者が処分した?!自分の想像が背筋に冷たい物を這わせた。

青ざめる私の手を握りながら月城が緊張感を高めた顔で「これから先の話しは二人だけの問題では済まないかも知れないから、お互いを信じていると意味も含めて雪影さんの下の名前を教えて欲しい。」と筋が通っている様で通っていない要求をして来た。姓名を明かす事に何の意味が有るか半信半疑だったが条件を付けて教える事にした。

「名前を教えますが、私の事を名前で絶対に呼ばないで欲しいです。」「直面している問題を解決するパートナーとしては認めますが、あなたと親近感を深める積りも深めたくも無いので苗字で呼んで下さい。」「名前で呼ばれた瞬間から協力関係を破棄して、私だけで問題解決をしますから」「これ脅しじゃなくて本心・本気で言っていますので宜しくお願いします。」私の言葉を聞いて月城は、そこまで嫌われているのかと、今、気が付いたかの様に驚きと戸惑いの表情を隠せぬままに「解った!条件を飲むし、雪影さんの気持ちも理解した。それでも聞いておきたいから教えて貰えるかな。」

月城の真剣な顔が崩れない事を確認するかの様に間を置いてから「恵子(けいこ)です雪影恵子です。」と応えた。

「有難う月影さん」と名前を呼ぶ事を避けながら礼を言って、月城が本題に入るかと姿勢を正し私に向かって話し始めた。

「君のお母さんがチラシを見て処分したから、月が君に直接アプローチして来たと思う。おそらく君の角膜を媒体に直接チラシを見せたのだと思う。」

月がチラシを私に見せた?!とすると「チラシを作ったのは月、だとしたら月の文章センスって最悪じゃないの」心の声が少し漏れたのを聞き月城は「チラシの文章を考えたのは俺だ。そんなにセンス無かったか?」と少しムッとした顔で聞いて来た。「ハッキリ言って恐怖を感じる程にセンスが無かったし、ゴミ箱に捨てる要因でした。」と居直り気味に言葉を返していた。

月城は私の自分への反感的な態度を改善する事を諦めたのか、月城の方から気持ちを切り替える様に話しを変えて来た。

「私が渡したチラシを見た事によって、君が月の事を知ったと月は思い込みアプローチして来たと思う。」「いや、月に関して君が知ったと思い込んだのは月だけでなく、君のお母さんも同じだとしたら、君がかぐや姫の血を引き継いでいる事も知っていると思っているに違いない。」また月城は自分の中だけで納得し考えを進めていた。

自分の考えを口に出しながら急に、月城が腑に落ちないと言う様な表情を浮かべた。「待てよ、だとしたら月とお母さんの考えと言うか思惑に誤差が有る様に感じる!君のお母さんと月の考えが違うなら、まだ間に合う!」

何が間に合うの?月城の自問自答を聞くにつれ母まで関係しているのかと不安な気持ちが募り言葉を押し出していた。

「私の母も関係が有るのですね。母もカグヤ姫・月と関係が有って変な出来事と関係しているのですね。」

不安に押し出される言葉は震えていたけれど、しっかりと相手に届く音量を持っていた。

月城がさらに緊張に顔を強張らせながら言葉を口にするか否かを迷っていた。その迷いは唇を震わせる程のものだった。

「この集まりに来た君の事を信じる。いや信じよう信じて行動するしかない。」と自分に言い聞かせる様に言ってから話し始めた月城の目には何かに縋る様に少し泳いでいた。


クロエ
YUMENOKENZI

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