ショートショート、書いてみました。
- 松上桂矢
- 4月7日
- 読了時間: 5分
こんにちは。或いはこんばんは。
突然ですが、先日、暇を持て余していた際に書いた、ショートショート(一作品)を掲載しようかと思います。
稚拙な文及び内容だと感じる方もいらっしゃるかとは思いますが、温かい目で読んでいただければ……と。
誤字などがございましたら、申し訳ございません。
タイトルは【月光】です。
___
何の因果か、夜の海を見たいと思った。
携帯の画面は温度もなく、二十二時を表示する。電車で行こうかと考えたが、終電の早いこんなど田舎じゃ、そんなこと出来るわけなかった。
ハイネックにデニムのパンツ、そしてくたびれたライダージャケットに袖を通す。申し訳程度のポケットに携帯と二十グラムの財布を突っ込み、愛車に跨った。
海まではすぐだった。車道にはトラックはそこそこいたものの、殆どが反対車線におり、すれ違った数も両手で収まるほどで、騒音もなければ、喧しい輩もいなかった。
安全に走行出来たとはいえ、昼の街とは逆転した、それはまるでゴーストタウンのよう。吸収される音の静寂さに、一種の不気味さ、気持ち悪さを覚えるが、それは「夜」なのだから当たり前だと脳の中枢に擦り込む。
オレンジのライトが包み込むトンネルにエンジン音を響かせ、一点の闇に向かう。それはこちら側を飲み込むように、じわじわと拡大していく。それに飛び込むように、こちらもスピードを上げていく。
瞬きをしたその刹那、私は闇にいた。赤、青、黄。その全てを溶かした、なんとも言えぬ濁った黒の上に、私は立っていた。数秒待てば、焦点があって来たのか、視界が明瞭になる。そこで初めて、トンネルを抜けたことに気づいた。よく足元を見れば、そのには道路舗装された形跡はなく、膝下まで背のある雑草がぼーぼーと生えている。
私はこの道であっているのか心配になって来た。地図を確認しよう。ポケットをまさぐり、すぐさま画面を開こうも、電源が入らなかった。ここでどうにかしようとしても、そんな知恵はないと自分でもよく分かっていた。
ふと、空を見上げると月があった。それは新月になる一つ前の、歪な形で、私を見下ろしていた。月光に手繰られるように、つま先は前へ前へと歩み始めた。
もうどれだけ歩いたかわからない。それでも、空は明るくならないから、まだ秒針が十周した程度にしか経ってないと、弱い頭に耳打ちされる。食料《パン》でも持ってくればよかったと後悔する。ここまで来たら踵を返せないと知ったから。
遂に、この迷いの森を抜けた。地平線が見えた。水と油の境界線以上にはっきりと瞳に映る、空と海の境界線、地平線が。
だがそこは望んでいた景色ではなかった。
崖だった。海辺ではなかった。
そしてそこには不穏な空気感が漂っており、長居するべきじゃないと本能が感じ取ったのか、微かに指先が震えた。どう見たって一般人が来ていい場所だとは思えなかった。
すると、視界の端から、薄手のワンピースを纏った、華奢な女が姿を現した。素足で崖っぷちに向かって歩いている。何を思ったのか、私はその見知らぬ女に近づいて、震える喉を右手で抑え、辿々しく話しかけた。
「あの、どちらからいらしたのです?」
女は振り向く。
「……ああ、都会の、少し離れたところから、と言ったら良いのでしょうか。貴方こそ、どちらから?」
「私はここからすぐの辺鄙な田舎からですよ。海辺の方に行きたかったのですが……ははは、生憎、道に迷ってしまいましてね。」
女は一瞬、キョトンとした顔を見てたが、そうなのですねと優しく相槌を打った。
「あたしとは全然違う理由ですね。ふふ。」
「……ここで会えたのも何らかの縁《えにし》でしょう。……少しだけ、もし貴女が良ければ、お話でもしませんか?」
彼女の話は興味深かった。なんと彼女は、 霊感があるらしく、《《見えざるもの》》が見えるときが最近になって頻繁にあるんだとか。胡散臭さはありつつも、エンタメとして聞いてる分には十分面白かった。霊とも会話できるそうで、ご老人の昔話は、現代ではあり得ないことばかりらしく、話を聞いていて、とても新鮮味があるそう。
私はこれといって話のネタを持ち合わせている訳ではないが、趣味についてめいいっぱい語った。
ブルーの瑪瑙色が空を染める。みかん色の漸次的移行《グラデーション》。夜は既に明けていた。先に気がついたのは彼女だった。
「また、いつか、こんな機会があれば、またお話ししませんか?貴女と話せて、本当に楽しかったです。」
すると、彼女は俯き、バツの悪そうな顔を前髪からちらつかせて言った。
「……またいつか、ですか。残念ながら、その約束は百年、何千年、いや、何億年経っても、果たせそうにありません。」
「では、せめて、お名前でも教えて頂けませんか?覚えておきたいのです。貴女のことを。」
「……ごめんなさい。」
彼女は、こちらを見ようとしなかった。そしてそのまま、崖の先に向かった。ひたひたと、血色の悪い足を震わせながら、己の意思で歩いた。手を後ろにし、手首をもう片方の手で握っている。こちらも同じく血色が悪いが、震えを抑えているのか、固く握りしめている。
この女は死ぬつもりなのだ。
最初に感じ取った不穏感の正体。
女は、もうあと一歩のところで止め、くるりとこちらを振り返った。そして変に笑ってこう言った。
「止める気、ないんですね。……わかりますよ。こういう相手は止めないことが一番ですしね。……最期に、遺言、ではないのですが、貴方に一つ、言っておくべきことがあるかと思いましてね。」
この眼差しには光などなく、
「数日前の深夜、ここに来るまでのトンネル内で、単身事故があったのですよ。それもバイクの。昨日、その《《ノーヘルの男性》》の死亡が確認されたそうで、付近に落ちていた財布から、身元の特定はもう出来たらしいのですが______」
「それって貴方のことじゃないですか?」
青ざめる私の視界の中心に立つ女。
彼女は、背から海へと消えていった。
___
end
.
松上さん、ご無沙汰です!
久々にゾワッとしました。。。
最近、幻想小説を読んでいたので、そのテイストかなぁと思い
読み進めてたら意表をつかれました(;'∀')
桂矢さん、こんばんは。
久しぶりですね! またあなたの作品を読むことができ、とても嬉しいです!
海辺とバイクと、トンネルと.....
かつて私も、そんな道を走っていたことが思い出され、ストーリーが織りなす主人公の未来を、彼とともに同期して駆け巡っているような感覚で読んでいました。
生から、今まさに死へ渡って行こうとする、男女の魂の交流に胸が詰まってしまいそうです。
そこで、その場所で、出逢うという約束の繋がり(カルマ)を垣間見た気がしました!
ショートショートに、せつなさと、神秘の美しさを凝縮させた、非常に魅力的な作品でした!
堪能しました!!
ゆめの