top of page
フォーラム記事
シノハラ
Pegasus
2024年5月03日
In 詩
エイがゆっくりと離陸していく
あわてず 音もなく
まるで落ち着いている
母親が小さな子を優しくなでるように
そっと羽ばたいて
大きな体が小さくなっていく
サンゴは笑顔で見送る
光が分散した ガラス細工の空を
まぶしそうに 憧れながら
2
338
シノハラ
Pegasus
2024年4月18日
In 詩
朝の4時半
がちゃん がちゃん
印刷機の監督が
バッターボックスから
がちゃん がちゃん
がちゃん がちゃん
印刷物を次々と
がちゃん がちゃん
四方八方に羽ばたく紙が
地面に落ちる前に
がちゃん がちゃん
なおかつ
しわをつけないよう優しく
がちゃん がちゃん
確実に
キャッチします
がちゃん がちゃん
もうどのくらい経ったのか
がちゃん がちゃん
ときどき深夜に及ぶことも
あります
がちゃん がちゃん
印刷物の内容は
たいしたことありません
どうせ誰も読まないんですから
7
312
シノハラ
Pegasus
2024年4月13日
In 詩
なんにもうまくいかない日の
雲の高さはどうだったかな
穀雨の匂いは同じだった気がする
指先から垂れた血
片手でひっくり返す薬の袋
机上に飛び散ったぬり薬と絆創膏
それでも確かに雪は消え
ぐるぐる巻きになった薬指は
カレンダーの通りに歩いてゆく
2
290
シノハラ
Pegasus
2024年3月31日
3
325
シノハラ
Pegasus
2024年3月20日
6
325
シノハラ
Pegasus
2023年12月22日
In 詩
ぼくって ほんとは スイカだよ
だって中身が まっかっか
鉄の雨つぶ 夕立だ
目玉や脳みそ ぐっちゃぐちゃ
ぼくって ほんとに スイカだよ
まっかな 汁で べっちゃべちゃ
さっきは 人だと 思ってたけど
割れて ちぎれて 転がって
遠くで かすかに 飛行機が
役目を終えて 帰る音
みんな スイカに なっちゃった
おうちも みんな 焼けちゃった
2
343
シノハラ
Pegasus
2023年12月20日
In 詩
あの人は鴎に跨っていってしまった
やがて一通だけ手紙が届き
輝く勾玉を愛しながら
鴎の羽毛に顔をうずめているという
私は 急に ひとり
玄関のドアが開いた気がする
冷蔵庫を閉めた音がする
しかし かすかな期待は外れ
自分の手を自分で温めた
次の朝 鏡を見て嘘だと思った
私が写っていない
疲れているからもう一度寝ようと
でも
ベッドには私の寝巻を着た骸骨
あの人はどうなってしまったのか
私は飛行機のような飛行機
手紙の住所を訪ね
呼び鈴を鳴らそうとしたら
肩をたたかれた
振り返ると鴎がほほ笑んでいた
あれから間もなく
鴎は敵機に撃たれ海の底
あの人は 勾玉をかかえ
ひとりで頑張ったのだという
呼び鈴を鳴らすと
杖をついた老婆が迎えてくれた
私と鴎と老婆は 再開を喜び
苦労をねぎらい 思い出を語った
暗くなるころ
中年を超えたあたりの男性が
「母さん、またひとりごとばっかり
この頃ますますひどくなるね」
と無神経なこと!
4
344
シノハラ
Pegasus
2023年11月26日
In 詩
福引の行列に並んだ
冷たい風で福引券が飛ばされないように
ゆっくり一歩ずつ順番が近づく
夢のない目で八角形を見つめる
がらがらとハンドルを回す
出てきたのは馬の面だった
面をつけて歩きだす
うしろで
大当たりの鐘がなる
鐘にしてはずいぶんと重い響きだったので
振り返ると
地面のほかに何もない
地平線が見えるほど
みんな消えてしまった
向こうから馬が走ってくる
何もないから白馬だとすぐわかる
白馬は私に
「人間はみんな死んでしまいました
かわいそうに…」
と教えてくれる
私は尋ねる
「私たち馬もみんな死んだのか」
白馬は答える
「いいえ、私たち馬はみな無事です
さあ、一緒に行きましょう」
二頭の馬は蹄の音を立てて
仲間のもとへ走り去る
二列の蹄の跡が
土煙と風に消える
5
358
シノハラ
Pegasus
2023年11月22日
In 詩
やさいを たくさん うってるよ
やさいを たくさん うってるよ
たくさんうってるよ
おいしくて ほっぺが おっこちるよ
おいしくて ほっぺが おっこちるよ
おっこちるよ
さいばしが また おれちゃった
さいばしが また おれちゃった
たおれちゃった
たまねぎ きったら なみだでた
たまねぎ きったら なみだでた
なみだでた
しあげに なっつを くだいて
しあげに なっつを くだいて
こなごなに
料理をしたいのは やまやま なんだ
したいのは やまやま なんだ
したいのやま
2
321
シノハラ
Pegasus
2023年11月18日
In 詩
高級な店内で初老の金持ちと若い女が食事
そこへ拳銃を構えた鉄砲玉が一人飛び込んでくる
一発、二発、金持ちの胸から血が噴き出す
若い女が泣き叫ぶ
金持ちの手下がすぐに駆け付けるが
鉄砲玉の仲間も駆け付ける
罵声と銃声が響きあう
鉄砲玉の頭から血が噴き出す
金持ちに数発、とどめがさされる
という映像を
テレビでたまたま見たのだが
どうせ嘘なら
高級な店内で初老の金持ちと若い女が食事
(私は普段着で同席している)
そこへ拳銃を構えた鉄砲玉が一人飛び込んでくる
(私は水を飲んだり、何を食べようかなと迷っている)
一発、二発、金持ちの胸から血が噴き出す
(私は金持ちの鼻の穴にフレンチフライを差し込む)
若い女が泣き叫ぶ
(私が女の背中に冷水を入れたからだと思う)
金持ちの手下がすぐに駆け付けるが
(私は手下に あなたはだあれ?と尋ねる)
鉄砲玉の仲間も駆け付ける
(私は仲間に 今日はどっから来たの?と尋ねる)
罵声と銃声が響きあう
(私は泣き叫ぶ女に静かにするよう注意する)
(私は、飛び交っているはずの銃弾の間を通って席に戻り
ウェイターにワインを注文する)
鉄砲玉の頭から血が噴き出す
(私は鉄砲玉のほっぺたをスリッパでつっつく
ついでに尻もつっつく)
金持ちに数発、とどめがさされる
(金持ちのフレンチフライが ふんっと抜け落ちる)
(私は金持ちのズボンにワインを じゃばばばっとふりかける)
そうですか だめですか
まあ現実の世の中のほうが
目を覆いたくなりますがね
2
320
シノハラ
Pegasus
2023年11月08日
In 詩
お父さんとお兄ちゃんと弟ちゃんが
自転車をこぐ
お父さんはゆっくりこぐ
お兄ちゃんは誇らしげに
なんの問題もないという調子で
時折ハンドルを軽く左右にゆらしたり
後ろの弟を励ましたりして
お父さんとの間隔を保ったままこぐ
小さな弟は
ちょっと大きなヘルメットかぶって
お父さんの足元くらいの大きさの自転車をこぐ
お兄ちゃんよりもぐるぐると忙しい
弟ちゃんは
大きな重機でも運転しているような
前方の波を見張る船長のような
寸分の狂いもなく材木を削る職人のような
小さくて大きな目をしている
お父さんは兄弟をちらちらとふりかえる
安全を見守るだけじゃない
二人の未来を見たいんだろう
4
357
シノハラ
Pegasus
2023年10月27日
In 詩
たまの日曜 サンデーというのに
みんな広場に 無理やり集合
悪い人たち 座っているよ
手足縛られ 並んだ五人
赤い顔した ハチマキ男
お酒 刀に ばばっと吹きかけ
地面めがけて 振り下ろしたら
首が転げて 残るは四人
笑い転げて 大声出して
少し静かに お願いします
頭冷やして この水鉄砲で
ひきがね引いたら 残るは三人
イエー フー
とてもびっくり 気を失って
早く起きてよ つついて起こそう
またも出ました ハチマキ男
刀 血まみれ 残るは二人
悪い人たち どんなことしたの
ペンで 平和を唱えた罪さ
それは大変 残虐非道
枝にぶらぶら 残るは一人
フーフーフー
悪い人たち どんなことしたの
みんな平等と 歌った罪さ
刀 ぶんぶん ハチマキ男
これでおしまい 全員解散
見ていたおばあちゃんが つぶやいた
「ああ すっきり
これが戦争だ これが戦争だ」
狂気より 狂っているものがある
たまの日曜 サンデーというのに
4
346
シノハラ
Pegasus
2023年10月18日
In 詩
プロコル・ハルムが
足元から湧き上がって
月が早々と店じまいをした夜に
オルガンを撫でている
その音色は今の気分を代弁していないが
状況を雄弁に語っている
そんな矛盾した21時過ぎ
電気を消そうか点けようか迷っている
情熱的な歌声はソウル的でもあり
アンサンブルはまるでひとりぼっち
星空がただでさえ少ないのに
曇っているから余計に耳を傾ける
怒りも悲しみも
今夜は雲の向こうか
どこか 痴の寝巻を着ているようだ
カモメの鳴き声で曲は終わった
4
329
シノハラ
Pegasus
2023年10月09日
In 詩
何も言うことはなく
思いつくこともない
頭が首の上に置いてあるだけ
これだけ多くの批判が噴火して
とてつもない量の
火山灰が積もってしまったら
酒を飲んでも耳からこぼれていく
目も口も鼻も
すべて穴があいて
空洞の頭だ
私は灰に混じった軽石
降ってくる灰に埋もれて
見えなくなる
それは自己防衛ですね
と 白衣を着た初老の
気の毒そうな小さな声
その声が空洞を通り抜けた私は
何も言うことはなく
思いつくこともない
頭が首の上に置いてあるだけ
4
338
シノハラ
Pegasus
2023年9月29日
In 詩
ぼくは 輪を 見つめている
輪はぐるぐるして
遠心力で ぼくは ゆっくり はじかれた
輪は 笑顔のまま
何かを話しながら 遠のいていく
ぼくは空白になって
土管の上に座る
いつもそう
いつの間にか
いくつも
カラフルな輪ができているけれど
ぼくは どの輪にも いない
そうか ぼくは 人間ではないのかもしれない
だから 誰の言葉もわからない
ねえ そうでしょうお母さん
ぼくは 人間じゃないんでしょう?
ねえ 変な目をしないで答えてよ
なんとか言えよ この 糞婆あ!
赤い奇妙な動物が横たわる
そこへ 灰色の 無機質がやってくる
父親みたいな声で あわてて電話をかける
4
356
シノハラ
Pegasus
2023年9月17日
In 詩
知ったかぶりする必要はないし
馬鹿を装う必要もない
偉ぶる必要はないし
卑下する必要もない
体は水の通過点でしかなく
心は宇宙と同じ広さをもつ
でも僕は
そういうことを忘れて
ひたすら美しく跳んでみせようとする
真冬の朝の氷の粒が
特別な演出であるかのように
でもね きみ
自分の足の動くまま
一歩進むことのほうが
よほど透明だ
雪にスタンプされた足跡は
ずっと向こうから自分の足まで行進している
うん それがいい
3
330
シノハラ
その他
bottom of page