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フォーラム記事
yasu.na
アレキサンドライト
2024年2月01日
In 詩
音楽のない時 を歩き回る
浜であれ 街であれ 聞こえる音はある
意図されないものが 聞こえると言われ
私は それを受け容れる
運命と運命との 僅かなる隙間にいるようで
経た過去も これからの未来も
肥沃な素材として 頭に引っ掛かる
そして自分が 少しずつ成長したとか
少しずつ変化したとか 考え出す
古いものを手に入れることと
新しいものを手に入れることとが
どう違うのか 惑う 惑う 必要なものなら
退いたり 進んだりはしまい
今や人は 何ものも上に戴かず
何ものも下に従えない 本当なのか
私が今いる場所 今いる時間 にはそう思う
特別な後悔や不安は ないとは言い切れない
でも 運命のさなかに巻き込まれていない 今
この峡でこそ 人の憧れは叶い
大いに驕っても そよ風の静かな音のように
聞かれ あらゆる意味で許されているだろう
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yasu.na
アレキサンドライト
2023年3月14日
In 詩
今夜は難解な映画を観たいものだ それはたぶん 青春の日々に感じていた優越感を また一度感じたいから ただでさえ物事を貶しがちで 物事を難しく考えがちな若者たち 中でも僕の気難しさは甚だしくて ほとんど病気と言えるほどで 何かこれと言って学習している意識はなく それでいて己の洞察は鋭く深いと思い込み いつか大成すると信じていた 群れを成す若者たちのいる街の上を跨ぐ 名を忘れた橋を渡って行ったミニシアター あの頃観たレイトショーみたいな難しいのを 今夜も観たいと思っているわけだ ああ落ちるところまで落ちたよ 何の芸もなかったわけでもないのに なぜか濁流に流されて 遠い彼方の闇に行き着いた善良な奴らを 僕は幾人かは知っているし 僕だって奴らと同類なんだと共感するね 今にして思う 奴らの時代は来なかったのだ 奴らの親の世代は太陽ではなかった 奴らを明るく照らすことができなかった 坊主頭では接客業務はできないのと同じで 笑顔なしでは何事もつとまらない 現代詩人だって 写真を撮られる時くらいは微笑むものだろ 何が快いのか分からないけどね 晴れた昼に街を行けば さまざまな世代の人間を陽が平等に照らす あなたの世代の地層も見える 他の層よりひときわ暗く静かな断面 今なお内向的で思い悩んでいる あなたにこそ ミニシアターのレイトショーは相応しい スクリーンの光があなたの顔を控え目に 行き届いた思慮をこめて照らす 文学部なのに耳が悪くて 外国語の勉強を諦めざるを得なかった僕 日本語だけで生きて行こうと覚悟した そんなことざらにある話だけど ショッキングなことではあるよね それでも得体の知れぬ自信は揺るがなかった ああ落ちるところまで落ちたよ 僕らの時代は来なかったらしい せめて青春の日々に観た いくつかの難解な映画をここにまた観て それが放つ仄かな光を浴びて 優越感 優越感を感じたいのさ
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yasu.na
アレキサンドライト
2023年3月03日
In 詩
台所のような場所は だいたいいつも真っ暗にして 灯りをつけるのも憚られる あなたの影を見たくないから あなたのやさしさやみにくさを 分かち難いまま葬っておきたいから 食べなくても 飲まなくても 洗わなくてもいい 僕は部屋にいて 小さな灯りだけつけて勉強している 書物を読みながら 時々ところどころマーカーする まるでそうして口を糊するかのよう 浮かび上がる大切そうな箇所 経営者も労働者も研究者も持ち合わせている キーワード志向の一種だろう 半ばこの方法を蔑んでいる 出世したいわけではない ただ勉強が好きなだけ すると成功がついてきたが 成功は己を図太くするばかりだと思った いつでも言えることがある 一生はずっと戦争だってこと だから あなたの悲しみに寄り添うことが できなかった あなたを大切にする時間を つかまえることができなかった 依然としてキーワードに線を引いている僕 簡単で効率的な学習方法 或いは仕事術 でもそれは 「あなた」という科目を解決しない あなたのどこにも線など引けるものか あなたの名を呼んでも すぐに消えるのだから
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年12月23日
In 詩
寝起きでまだよく目が見えないまま テレビのリモコンを手に取り テレビをつけた 「あんたの家なんて借家でしょ!」 と子役の役者が言うのを聞いた 暗い気分になった 要するにあなたの家は貧困層だと言いたいわけだ この陰気な台詞には覚えがある 同じことを小学生のとき女子に言われたから あの頃すでに貧富の差の観念が芽生えていた 確かに貧乏人差別の言葉ではあったと思う でも覚え始めたことについて 誰が黙ってなどいられようか だからあの言い草は単なる口の運動だったとも思える 言いたいことを好きに言うことで成り立っている生活だ 毎日新品の言葉をもって 生活を飾りたい 子どもならなおさらそう しかしもう僕たちは口の周りの神経を制御して この誘惑に抗すべきだ 誘惑されて発した言葉は空しい それが正しいものであろうとなかろうと 空しいものである限りはこれと闘え 僕はテレビを消し 身支度をして借家を出た お金を稼ぐのは大変なことだ どれくらいの人が自分の家を建てることができるのだろう 小学校からの下校の途中 住宅街を抜けながら家々を見たものだ そしてあんな家に住みたいと思ったことが幾度もあった 時には口に出して友人に聞かせた 「わい、あんな家に住みてえ」 本当にそう思った しかも大人になったら自分はあんな家に住むと思って疑わなかった でもそうならなかった 相変わらず借家住まいだ あの憧れの家々はまだ僕の心の中に建っていて 夜には窓の灯が僕を魅惑する でも今は僕はそれを口に出しはしない 誘惑されて発した言葉は空しいと知っているから ただ心の中で言う 「わい、あんな家に住みてえ」 これは真実だ 呼吸とともに胸に疼く 真実だ 川のように地に吸われずに流れる 強い真実だ
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年11月29日
In 詩
銘々の人々に等しく訪れる暁の時間と感動 決してそれは一瞬のことではないし一通りのことでもない 空が徐々に暗い夜を脱いでゆくさまや この時間に歩いている理由が分からないわずかな人々の進行 あるいはなぜかこの時間にベンチに腰掛けて話を弾ませている男女たち どんな画家がどんな絵筆を取ったとしても そしてどれほど大きなカンバスにであったとしても 一度限りの思いでは描き切ることができそうにない そんな少し長い 永遠ではないけれど易くは過ぎ去らない時間と感動のことを 人々は暁と呼ぶものだ この暁の時間と感動のうちに一仕事 済まさなければならないのが人間の性 惑いなき覚めた感覚で罪さえ忘れ 夜と朝との狭間にできたこの空隙に 測量機器を立てて信号を飛ばしてみる人影があったのだ それからただの人影だったものが人間の姿を現して ただ沈黙のうちに交わされていた合図が声になって まばらにそのあたりに居合わせていた人々の耳に聞こえるようになった頃 暁の時間と感動は終わりを迎え 外に出ている人々は銘々の測量機器を仕舞いにかかり 淀みのうちに存していた喜びに朝の光が射し込んできて 行くべき場所が少しずつ明らかになると みんな分散してまた新たな社会が始まる
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年11月01日
In 詩
愛されることは僥倖か報いか功績か 私は惑っている 夢とうつつとの間を かたみにめぐっているような 定めと変転のあわいで 不思議と溺れず泳ぎ続けているような そんな生の中にあって 私たちには 愛し愛されるということが起こるようだ 愛す これは皆の一人一人のうちから生じることであり 激しい噴泉のようなものだ でも愛されること これは僥倖か報いか功績なのか はたまた何か別のものなのか 私は惑っている なぜなら 何かよいものを受け取ることは喜びをもたらす でも私にはその喜びがどこか浅ましい 憐れむべき恥ずべきものに思えるからだ 愛されること これは僥倖か報いか功績なのか いや私はもっと 自己の利得を超えたものであってほしい
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年10月24日
In 詩
「最後に会ってから かなり時間が経っていますね」 こう返答された もう再びこの人と交感することはないのだと 感じた 別れの多い生活を送ってきました 続いていたのは心臓の鼓動だけ 断裂を幾度も越えて生きてきました でもそれは僕一人だけが繋いできた人生 君にとって僕は消えた存在だったのだと感じる 僕との別れなどなんでもないことなのだろう 僕と別れても君の人生は出会いと連続で充足していた 君の絶え間ない人生の中から僕ははぐれてしまったのだ なにごとも久しぶりでは済まない場合がある 誰もが自分の人生に忙しいから忘れてしまうこともある 別れの多い人生だ 誰とでも 縁を切ろうと思えばすぐにできること 時間さえもが連続の味方ではない 今はただ 心臓の鼓動にいたわりの声をかけたい
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年8月19日
In 詩
何かを整理することは 真実へと近づくことなのだろうか トラックが通るたびに揺れる部屋で 僕は考えている さっきの夢は気持ち悪かった やわらかいものをブロック状にかためて 積んでゆくのだった 積んでも積んでも やわらかいものは次々とそこに限りなく生まれ 僕は休むことなくかためていた やわらかいものをかためることをやめられない これが僕らの性分なのか やわらかいものをまだ残したまま 僕は目覚めて起き上がった かたい道路を歩きたくて外に出た お日様がこの世を照らし 空は青かった 夢みたことは 本当のことを語っていたのだろう かたいものは真実で やわらかいものは解決すべき問題だった 僕は寝ても覚めてもかためることをやめないだろう お日様に祝福されて 僕は安心することができた 夢の中に置いてきた まだブロック状にしていないもののことを考えた でも間に合わなかったのだから仕方ない また会う機会があるだろう だから今は間に合ったもののことだけ大切にしよう かためることのできたもの それらが僕のよりどころ トラックがあまり走らないようになった 揺れない部屋で 僕は今日これからの予定をたてている
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年8月16日
In 詩
法定点検の時期が来て 靴が新しくなりました ちょっと歩きやすくなりました 音楽も変わりましたが 止まぬことに変わりはない そんな音楽を私たちは好きだけど 影響されたくないと実は私たちは思っている この世からなくなってもかまわないとも あれこれと人類はうたい 宣言を繰り返してきたものです そんな宣言が書き記された古い書物には価値がある ところでそれらを価値づけている原理はどういうものですか 寡言のまま過ごしたい昼がある 寝る気になれない夜もある 人のことをああこう言う暇はないってこと そろそろ気づいていいと思う でもこの世をわたるには 人のことをああこう言って行くしかない 口さがない私たち 法定点検か 最後の問い みんながわたる横断歩道は誰の土地ですか
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年8月16日
In 詩
かの人ら夢にまざまざ現れて夜に寝昼に寝見えぬ時なし かのひとらゆめにまざまざあらはれてよにねひるにねみえぬときなし 夢の心運びつつ這ふ部屋の床光かげろひ明かしと思ふ ゆめのしんはこびつつはふへやのゆかひかりかげろひあかしとおもふ 迫り来て我に物言ふ師の顔のまさに肉付き生くがに照れり せまりきてわれにものいふしのかほのまさにししつきいくがにてれり 童の時分山の緑をくもらする小雨見しこと宿題の間に このじぶんやまのみどりをくもらするこさめみしことしゅくだいのまに 火事起こり一棟没せし跡の地にひまはりの花一叢立てり くゎじおこりひとむねぼっせしあとのちにひまはりのはなひとむらたてり 盆をどり我はをどらず輪の外で人のをどりに見惚れて居たり ぼんをどりわれはをどらずわのそとでひとのをどりにみほれてゐたり 夏風に激しく回るかざぐるまありとある歴し月日の記憶 なつかぜにはげしくめぐるかざぐるまありとあるへしつきひのきおく
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年6月21日
In 詩
赤い線黒い線 どちらがプラスでどちらがマイナスか そんなことを迷い悩みながら 機械をいじっていた 赤い線黒い線 どちらが上りでどちらが下りか そんなことを迷い悩みながら 人生で立ち止まっていた 意外な時に重要なことがやって来る だから突然行動が必要になる 人に聞いたり本を読んだり 外に出るということ 赤い線がプラスで 黒い線がマイナスだから 赤い線を赤い線につなごう 黒い線を黒い線につなごう すると鮮やかに思い出が往来し始めた 日々の人生で どこから上りどこから下るべきか分かったということ これからの人生がまた スタートするということ
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年5月26日
In 詩
最初は二つに見えたのが 本当は一つだったというような そんな淡く仄暗い 謎の大きな生活をしている みんなが同じものを見ているというのは幻想なのかどうか 僕がつかみたいのはこのことなのだ 僕と一緒に帰る人はいない 僕は別に一人が好きなわけではない でもみんなは向かいのホームにいる 自分を売る術を心得ている奴ら 群れる彼らは何かを求めているわけではないのだろう だから彼らは道を見失わない 僕は何かを求めて進んでいるはずだ それでいつも結果はみんなと違うことになる 僕はしょっちゅう迷子になる 変化を恐れながら 磯に沿って行くしかないのが人間なのかな 終電に近い電車の車両の中で 僕は息を吹き返す 僕がいつも隠れる あの淡く仄暗い地帯が 見えてくる 二重線が見える 地に向かっては地平線が 海に向かっては水平線が あるがままに、なるがままに そんな心でいれば 自然にイメージが湧き そのイメージ通りの場所へ 毎日本当に行くのである 同じことを繰り返しているようで しかしいつも何か新しいことに遭遇する いつもの道の上に いつもと違ったことが起きる だから考える必要はない 同じことを繰り返すようでも いつもの道を行くことだ 空と地との間で人と人とが結びつく 人と人とが結びつき続けることは難しい 空と地が遊離している力が緩む時 空が地に下って来て もう空と地との区別がなくなってしまう時 そして海では 游弋していた艦船が 宇宙に溺れてしまう時 その時に ああまた戦略などという忌まわしいものが 柔らかな土の上に茎を出す あるがままに、なるがままにと こんな小さな国には 新聞社は一社しか要らないと言う人もいる 虚空の下には家々の屋根 ばらつき落ちる鳥の群れ ああまた言葉の臭味がする あなたから 少しは安心できる電話が欲しい 封筒を翻した時 あなたの名前があって欲しい 自分で自分の体に手術をするのはもうやめたい
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年5月10日
In 詩
運命はいつでも待っていて、いずれまみえることになる、 でも本当に起きたことなのだろうか、 かつて僕がいた部屋に今出入りしているのは悪魔、 僕はその部屋に別れの言葉を言うことも許されなかった、 記念の写真を撮ることもできなかった、 僕は突然追放されたのだった。 夢に見る、あのエメラルドグリーンのドアを開ければ、 僕の人生があった、 親しく開けて親しく閉めたあのエメラルドグリーンのドアよ、 親しく握ったあのドアノブよ、 今や形も温度もよそよそしく、僕の手を受けつけない、 ああ闇に葬られた僕の人生、僕の功績、 これ以上は話すまい、僕は悪魔と違って口が堅い、 しかし悪魔は都合のいいことばかりぺらぺらしゃべる、 その口さがなさと言ったら! 僕の心には秘密よりほか何もない、 そして僕は秘密を守ることができる、もう話すことはない、 話してはいけないことしか残されていない!
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yasu.na
アレキサンドライト
2022年5月06日
In 詩
そうだった、一人なのだった、誰かがいると思って、 目を覚ましたのだけど、 そして鳥かごの中には一羽のかわいい小鳥がいると信じて、 でも一人なのだった、僕の他には何もない。光はやわらかく明るく、 だから僕は許せた、現実が夢を裏切ったことを。 耳を傾ければ聞こえてくる、いや見えてくる、 山林の向こうには広大な平野があるのが、 そこには一本の線路が静かに地平線まで延びているのだ。 激情は人を遠ざけます、人は激しいものから離れてゆくもの、 誰もそれをあらかじめ知ることはできない、 一人になってはじめて分かるのだ。 やり直せるよ、余分な命などないのだから。
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yasu.na
その他
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