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フォーラム記事
武中義人
2024年11月01日
In 詩
朝が空を甦らせてゆく
中学時代 <現在進行形>を
英語で学んだ次の日
その本質を理解したように思う
遅かったかも知れない知解であったが
私には新鮮で清々しかった
それ以降英語が苦でなくなった
それだけでも良いことではないか
数学は数式と数の魔術だと
新しい解法を学ぶたびに
問題の文章とそれを形にする式が
頭の中を駆け巡った
意図せぬことは何もなかった
あったとしたら 中学2年生の時
強迫観念にかかったことだ
そこから抜け出すのに1年余必要だった
それは本当に苦しかった 手を洗う
いつもハンカチはビショ濡れで
手には油気が失せていった
冬にはヒビ割れができていた
その翌年の誕生日 キッパリ
手を洗うのを必要以外やめようとした
3日間 空間は曲がり 不眠の
夜が続いた 4日目の朝
やった眠れて顔を洗うと
こんなにも水は優しいのだなと
涙と共に実感した 中学時代は
夢と苦の綯い交ぜになった期間であった
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武中義人
2024年9月08日
In 詩
ひと雫の波が
その夏を覚えている
その夏の冒険を
夜風は今閉じる
歩き疲れて 道路の端に
微笑みながらしゃがんで
大きな空を見上げていた
そこへ一人の女性が現れた
―乗っけていってあげるわよ―
私は恥ずかしそうに俯いて
陽に灼けた首筋を搔いていた
―さあ早く 行き先をいって・・・
彼女は近くの駄菓子屋へ寄った
アイスクリームを買ってくれたのだ
―家出してきたんです 帰るところが・・・
―まあ よくないわ 喧嘩でもしたの?
彼女は笑いながらハンドルを握った
―こんなに遠くまで・・・この先に
海があったわね? 寄っていこうか?
―いいけども・・・私は無言で頷いた
潮風が開けてある車窓から
雪崩れ込んできた それは
少しベットリとしていたに違いない
駐車場に車を入れて二人は海辺に向かった
海岸は家族連れで
いっぱいであった 実は
私は海が怖いのであった
深緑の深淵に吸い込まれる気がして―
彼女はサンダルを脱いで
素足を波際に浸した
私も靴を脱いで同じようにした
―あとで足を拭いてあげるわ―
私は(年で言えば30前後の)彼女の
言うことをおとなしく聞いた
―もう家出なんかするんじゃないよ
さあ 足を出して―タオルで拭ってくれた
―今年も海に来たな 記念だね―
彼女は笑って車までゆっくりと歩いた
クーラーの利いている車内で
私は少し眠ったようだった
暫くして目が覚めた 車は
山間地帯を走っていた 私の街だ
―私のことは内緒にね・・・いい?
―ありがとうございました!
彼女はこれ以上のことは何も
言わなかった ひと雫の波だけが
知っているこの私の愚かさ
今だから言える彼女の大人っぽい優しさ―
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武中義人
2024年8月15日
In 詩
全てのものが 全てなるものの
裡で 脈動し躍動している
この少し憂愁を湛えた
緑の海面下に棲む
生の根源にまで遡る時
月も星も原初の動態で
私たちを誘い 開示し
更に明日を望ませてゆく
小さな未来―それは肯定の
膂力で漲っていはしまいか―
微笑みが小さければ小さい程
そこにはこみ上げる情愛も深くなる
笑いは常に或る完成である
そしてその完成は 途上なるものの
結節点である 次へ―と連なる
生命的連関の端緒となるものである
真昼が夜に雪崩れ込むように
展開する沈黙の裡の生の密儀は
変約することなく明日を予告する
その一日の重みを十分に理解すること
それが今日を活かす学習とはなる
命の根本が そのことを
整理し 遂には体系化してゆく
その書物のタイトルは<人間>―
何らの哲学でなくとも好い
移動できる空間と 来る時との
相互作用―或いは照応―
優しくあれば その掛け合う声は
宇宙の果てまで通ずるであろう
海の底の深海魚の夢に
新たな皮膜を作るであろう
神秘が具体化し 更に
建築的に昇華するであろう
バベルの塔は いずれの
人のこころの奥にも存する
この上昇する人心の極みは
毎日の発見と驚きに依拠するのだ
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武中義人
2024年7月14日
In 詩
泣きそびれて白くなり
笑いながら陽を受けて―
小さな命だと それでも
自分から生きようとして―
朝の階(きざはし)が遠くから
私へと第一歩目を示す
段々と体温が高くなり
鼓動は風のように宙を切る
母の胎内での温もりを
今 鮮やかに思い出す
指先をペロリと舐めて
この穏やかな地図をなぞる
現在も続くこの苦しみを
貴女から受け渡された証しとして
今日も溌溂と前進してゆこう
それいかできなくて―いい?
風呂で涙を洗い 髪を洗い
独りぼっちの生活ではあるが
毎日を捨てたことは一度もない
それは貴女との誓いだったね
果てしない喜びがあるとすれば
それは貴女から生を享けたこと
この小さな笑顔はきっと
見守られていることの事実です
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武中義人
2024年6月02日
In 詩
音楽の中に 詩は
必ずあるものだ 詩の
中に音楽があれば素敵だ
夜に響く音響も
真昼に奏でるクラリネットも
きっとあの宇宙との交信を
怠ってはいない 星座が
歌いながらその軌道を進んでゆく
そこには超越があるであろう
恐らく神意にかなったやり方で
達成される超越が―
一つの円形の裡で催される
音楽祭―極度の緊張を伴って
伝わってくる楽曲の春雨のような
優しさ―まだ少し冷たさはあっても
体温の均す地表に向けて
それは踊るように降ってくる
現在 午前4時 暗い周囲から
朝の確かな予感が漂っている
その感覚もまた音楽のようなもの
愉しさと少しばかりの不安を込めて―
一日の広がりが その向こうの
地平から迫り上がってきて
身近へと建築する今日の絵画よ
描かれたものも音楽であり続け
その画布から こちらに来る楽曲には
通奏低温として 真実と命の煌きがある
生命からの微笑みが 確然と
伝わってくる 全体的憂いと
絶対的な優美さがそこにはある
きっと朝が為す自然の技法
であろう 今も雨は降り続け
軒を打つしなやかな音階は
目の奥から溢れ来る涙のように
私の心持ちを大空へと開いてゆく
―さあ 少し眠ろうか―コーヒーマグを
洗いながら 昔愛した歌を口ずさんでみる
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武中義人
2024年5月01日
In 詩
情感とは必ずしもゆるやかなものではないが
それは対象或いは内面が多段的であるためであろう
小さな まるで誘いのような安らぎから
荒ぶる まるで嵐のような感情に至るまで―
だがそこには 二重の等式と不等式があって
イコールと大小がプラスで結ばれるのだ
そのことを全生涯かけて探索・実感してゆくのが
哲学者や詩人の役割だとしても何ら不思議はない
何故なら 情感は哲学者を詩人にし 詩人を
紛れもなく哲学に向かわせるからだ この
等式に宇宙が加担しその確立に助成するならば
世界は瞬く間に沈黙し数多の完成へと導くであろう
それは作品ばかりではあるまい 個々人の
脳裏に展開される未完成の序曲として存するからだ
言葉は常にその発展を助ける イマジナリーな
本来空虚なものを決定的に明確にしてゆく
新しいものはいつもさり気ないものだ
例えば 毎朝の到来は遂に気取られるものではあるまい
しかしその地の温もりはきっと天と通信していて
鏡のようにお互いの本来を映し出しているのだ
3
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武中義人
2024年4月11日
In 詩
ここから私の書物は始まります
根で目覚め 空気を新しく吸い
掌の中の小さな平野の温もりが
明日の到来を予告しているかのよう
川岸の桜は満開で 駅の噴水は
陽光に輝きながら鳩に潤いを与えている
遠くのビルディングの非常階段から
軽やかな真昼がやってこようとしている
雲や今日の太陽に縁どられた大空が
穏やかな 花のような両手を広げている
様々な感情が 今にも逃げ出そうとして
微笑みながら捉えられる明るい谺の震える街―
ドーナツショップで二杯目のコーヒーを―
窓の向こうを女学生が颯爽と自転車でゆく
帰りの各駅停車で少し眠った 駅に着いて
仰ぎ見ると近づいた夕暮れが西に陽を移していた
橋の上で―三日前に降った雨で増水した川面の
濁流に目をやる 茶褐色の渦が縺れて流れてゆく
家に帰って―キレイに乾いた洗濯物を取り込む
春の陽の温か味がじんわりと皮膚に伝わってゆく
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武中義人
2024年3月25日
In 詩
街は不在の森
様々なイミテーションの
不可解な離れ業
時刻の変わる季節
常に相槌を打ってきた
分からぬ風を装い
消しゴムで自己を消してゆく
流れるひと呼吸の与件
街は誰をも受け容れてしまう
空回りすることが
まるで運命でもある如く
判然と示す方向を切り
私はその断面に貼り付いてしまう
無雑作に作った吐息
意識が重なり合い
不連続で しかし 直線のような・・・
私は不可解な線分で良い
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332
武中義人
その他
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