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物語

公開·12 メンバー

すぅ

Knight of Comments

慈悲の泉

Spring of Mercy

とある操り人形の物語(6)


〜最終章 過去と今と未来〜

 私は新しい仲間、新しい主様の少年と共に、彼のお父様のお店に遊びに来てくれる子供たちの前で、人形劇を毎日披露しました。目をキラキラさせながら喜んでくれて、私は今とても幸せです。


 少年のことを、私は買ってくれた翌日から主様とお呼びすることにしました。恩人であり丁寧に優しく取り扱ってくれる彼を私は尊敬しているからです。

 それから何年も経ったある日のこと、店の扉が開くとそこにはご家族を連れた元主様が、歩き始めたばかりの幼子に人形劇を見せに来ました。

 「お前はあの時の!新しい主を見つけることができて本当に良かった。」

別れた時とは違う、昔と変わらない優しい笑顔で、私をまた見てくれました。元主様はすぐに私だと気付いたようです。

元主様の奥様が「あの操り人形さんを知っているの?」と尋ねると、「あぁ、昔の相棒だ」と答えていました。

主様が私を優しく抱きしめると、「この子は今は僕の操り人形ですからね。必ず幸せにして見せます。」と、ムスッとした表情で宣言しました。

それを聞いて元主様はバツが悪そうに頭をかくと、「あぁ、私はその子を幸せにできなかった。大事にしてやって欲しい。」そう伝えました。

それを聞いた主様は胸を張って、「言われなくともそうします。」と元気よく答えるので、元主様も奥様も可笑しそうに笑いながら、「違いない。」「そうね。」と顔を見合わせました。

私は恥ずかしいやら嬉しいやらで困りながら、彼の腕に抱かれていました。

 その後、様子を見計らって元主様の奥様が「あなた、人形劇を見せに来てもらったこと忘れていませんか?」と元主人に声をかけました。

「あぁ、そうだったな。うっかりしていた。すまない。」元主様は奥様に謝ると、主様に人形劇を見せて欲しいと頼むます。「分かりました。それじゃあ、僕の操り人形とお人形さんたちの人形劇を楽しんでいってください。」主様は他の店員さんと協力しながら、人形劇を元主人のご家族に見せました。

私は、踊りを元主様の真正面で踊ったことは一度もなかったので、披露することができて嬉しかったです。

元主様は、私と舞台に立っていた頃を思い出したのか、涙ぐんでいました。

幼子も奥様も私たちの舞台を楽しそうに見てくれて、幸せでした。

人形劇を終えると、元主様のご家族が温かな拍手を私たちに贈り、笑顔を浮かべてくれました。

主様、店員さん、お人形さんたちと一緒に揃って礼をすると、人形劇の舞台は幕を閉じました。

 その後、前主様のご家族と主人の少年は暫く楽しそうに歓談した後、最後に前主様は「じゃあな。」と言ってご家族と一緒に去っていきました。

彼らを店の外まで見送った後、「君は僕のお人形さんだからね?」と微笑む主様と顔を見合わせながら店内に入りました。

 私は幸せな操り人形。主様とその家族、店員さんに仲間と共に生きていくわ。

そう心の中でつぶやくと、主様の腕に抱かれ、店の奥へと私は姿を消しました。

めでたし、めでたし。

雪影
雪影
Jul 16, 2024

パチパチパチパチ・・・とても素敵な物語でした。何と言ってもハッピーエンドだったのが良かったです!

少年が、元主様に少し嫉妬する所が可愛くて男なんだなって思えました。元主様も子供が生まれて幸せそうだし、二人の主様と家族が楽しそうに歓談している場面も自然に思い浮かべられて、少年と人形さんが二人で顔を見合わせて店内に入って行く所は、まるで映画のラストシーンの様でした。

素敵な物語を読ませて貰えて感謝です。有難う御座いました。

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