ある夜いっ匹のカエルと出会った
とくに運命だとか一目惚れだとか
そういう刺激も何も無かったが、
おれはそいつにピーくんと名付けた
おれをどう思ってるのかわからんな
粗相をすることもないな
寒いからエアコンを消せと
うるさく注文をつけてくることも無いじゃないか
まあおれも
おまえに慰めて欲しいなんて思ったことはないけどな
おまえの目を見りゃだいたいのことは
わかるんだ
おまえもそうだろう?
ピーくんをはなす時こう思ったな
ずるいぞ
おまえは今日から自由かよ
おれを置いてけぼって楽しいか
おまえのようにおれもピョンと田んぼに沈んでいきたい
まあでもおまえの選択は正しいよ
おれはおまえのことなど気にする暇はないのだ
おまえのエサだとか服だとか下の世話とか
そんなことは頭にないんだ
ただおまえを眺めるのが好きだったのさ
そこは鏡の国のようで、なにもかもが真っ逆さまだった
おれはおまえを気に入っていた
どうか今日より、おまえに幸多からんことを願ふ
そしていつか
日々、跳ねる田んぼの世界がぼんやりして
眠気がおまえを覆うその時、
開いたおれの両手にピョンと
跳び乗ってきておくれ
多数の制約にしばられた人間は、ときとして生き物の自由さに惹かれるのかなと思いました。
良い作品だと思いました。